作者の結城真一郎さんは1991年生まれ。東大法学部を卒業後、2019年にデビューした新星だ。 人気の秘密は、そのキャッチーさ。YouTuber、マッチングアプリ、リモート飲み会など、いずれの短編も令和を生きる私たちの身近なシーンで起きる事件を描いている。 テーマが現代的なだけでなく、ミステリとしての面白さも超一級。 何かがおかしい……という違和感が積み重なり、最後には「そういうことか!」と悔しくなるどんでん返しが待っている。 裏側をのぞきたくなる、「今」を凝縮した物語はどう生み出しているのか? 創作の秘密をインタビューした。 最初から書籍化を前提としていたわけでなかったんですけど、自分の中で勝手に単行本にまとめやすいようには考えていました。タイトルを4文字にするとか、トーンをそろえるとか。 『小説新潮』に書いてきたものをまとめた形ではありますが、連載ではないんですよね。1年に1回くらいの掲載ペースで、かなり間隔が開いています。 ――となると、最初からかっちり方向を決めて書き溜めていったわけではないんですね。 そうですね。そういう意味では一番早く書いた「惨者面談」は、少し毛色が違うかもしれません。「中学受験と家庭教師」なので、現代的なモチーフではあるのですが。 そこからは、明確に最新のガジェットやWebサービスを用いたものになっています。 ――「リモート飲み会」など本当にコロナ後の世界の「あるある」だと思いますが、お話を考える時はモチーフから決めているんですか? はい、「今回はこれでいこう」と先に決めています。 リモート飲み会も、まさに自分もコロナ禍になって初めてやったことで、「これで何かできないかなぁ」というところからです。 ――他に「これもいけるかも」と思った題材はあるんでしょうか。 もしこの本にもう1話2話加えるとしたら、「相席居酒屋」とか「ギグワーカー」、いわゆるUber Eatsの配達員みたいなものもありだなと思っていました。 5年後や10年後にまたその時の「今」を切り取ってもおもしろそうですよね。 そもそも、自分はそれまでほとんど短編を書いたことがなかったんですよ。なので、人生で初めて書いた短編5作が本になった感じです(笑) ――ええ!? 構成も舞台設定もうますぎる、短編得意なのかな? と思ったくらいなのですが……。 そう言ってもらえてありがたいです。テーマの身近さに惹かれて手にとってくださった方も多いと思うので、こういうアプローチはまたいつか書いてみたいですね。

普段ミステリを読まない人にこそ

――現代性や身近さにこだわったのはなぜですか? ミステリ好きのコア読者“以外”を取り込みたいという気持ちが強かったです。 「絶海の孤島で嵐に巻き込まれ」とか「細かい時刻表を眉根を寄せて読み込む」とか、はい!ミステリです!という仕掛けよりは、YouTuberとかマッチングアプリとかキャッチーな題材の方が普段あまり本を読まない方にもハードルが低いかなと。 そうですね。デビューして数冊はミステリファンに名前を覚えてもらうというか、「最近出てきたこいつ、ある程度ちゃんと書けてるじゃん」と思ってもらうのが狙いでした。 そっちの方向で一定程度知ってもらえた感触もあったので、じゃあ裾野を広げる方にシフトしようかな、というのが今作ですね。 ――なるほど。……すごい戦略家ですね。 たまたまうまくいったんですけどね! 自分でもびっくりしてます、現実世界でも「伏線回収」してしまった感じに……(笑) ――たしかに鮮やかすぎる伏線回収! 推協賞(日本推理作家協会賞)も受賞して。 それは自分では全然仕込んでなかった伏線で「あれ?」ってなってますけどね!(笑)10年後くらいにとりたいなと思っていた賞を、予想よりかなり早くいただいてしまって……。 ありがたいはありがたいですけど、実力に見合わない段階でって思いはゼロではないです。自分のなかでも「この期待に応えなくては」とハードルは上がってますし、緊張感はあります。

中3で書いた「バトロワ」パロ

――開成中高から東大法学部という世間的には超エリートコースを歩んできた結城さんですが「小説家になりたい」と思い始めたのはいつ頃なんでしょうか? 原体験は、中学3年生の卒業文集で『バトロワ』のパロディ小説を書いたことですね。自分を含むサッカー部の部員たちが、高校への進学権利を争って殺し合うっていう。 ※『バトル・ロワイアル』:1999年刊行の高見広春のベストセラー小説。中学生が殺し合うという衝撃的な内容に批判も多かったが、当時多くの若者たちが夢中になった。2000年に藤原竜也主演で公開された映画も大ヒット。 ルーズリーフにシャーペンで書いて、パソコンで打ち直してました。授業中に書き進めるために(笑) ――先生にバレないように。中学生っぽくてかわいいです。 1時間目から6時間目まで、1ミリも授業聞かないでひたすら書いてましたね。結果、原稿用紙600枚くらいになりました。 ――600枚! 大長編ですね。 そのせいで僕らの代の卒業文集は2冊になりました。 その長い小説に、同級生だけじゃなくて、保護者の人からも反響があって。「あのシーンがよかった」とか「うちの子の死に方がちょっと……」とか(笑) 自分が生み出したものにリアクションをもらえることが、初めての経験で気持ちよかったです。あれが創作の原点ですね。 ――そこから書くことに夢中に…? いや、そんなことなくて。そこから数年間は小説はまったく書いてなかったですね。 中高時代は学校行事にのめり込んでましたし、大学入ったら飲み会行ってバイト行って。よくいる怠惰な大学生でした。今でいう「ウェイ系」ですね(笑) 漠然とした夢が明確な目標になったのは、同級生の辻堂ゆめさんが「このミステリーがすごい!」の優秀賞をとって在学中にデビューしたことですね。 「ヤバい、書かなきゃ」と思ったのはそれからです。東大法学部の2学年上に新川帆立さん(『元彼の遺言状』)がいるんですけど、彼女も辻堂さんのデビューで「ヤバい!」と思ったらしいです。 ――東大法学部、ミステリー作家が多すぎる。 辻堂さんがいなかったら今もまだデビューしてないんじゃないですかね?「20代でデビューする」が目標になったのも明確にその時ですね。 ――小説家以外の将来を考えたこともあるんですか? 考えたこと……ない、ですね。 今は兼業で仕事をしながら執筆をしていますが、兼業であることが創作にプラスとなる側面もありますし、デビュー前からそういう意識は持っていました。 どこかで小説家を諦めるルートもあったのかなぁ?どうだろうなぁ……。 しばらく芽が出なければ、一時的に書けなくなったり、腐ったりする時期はあったと思いますが、でも、最終的にはどこかでまた書き上げて、投稿していたんじゃないかという気がします。 デビューに際して年齢制限があるわけでもないので。その意味では気長に、永遠に目指せる職業ですし。 すみません、超大御所のお名前を臆面もなく! ――いえいえ、なんというか、目指すところは超メジャーどころなんだなと。語弊があるかもしれませんが「読書好き」こそ超売れっ子の作家さんを好きだと言うハードル、逆にあるかなぁなんて…。 あぁわかります、わかります。ミステリ読みであればあるほどね。海外のマイナーな小説家とかの方がカッコいい感じが。 ――ミステリの世界は、玄人受けする作家さんもたくさんいますもんね。 追いきれないくらいいますもんね、面白い作家さん。 ――でも今日お話していて、結城さんの“陽キャ”感がめちゃくちゃ伝わってきて、このセレクトに大変納得しました。 あはは! でも本当、気質がミーハーなんですよ。てらいなくメジャー大好き。 実際、子どもの頃に宮部さんや東野さんの作品を読み漁って「小説っておもしれ〜!」と知ったわけですから。好きなんだからカッコつけても仕方ない。 自分の性分としては、コアなミステリーファンの人にぶっ刺さるものよりも、多くの人たちにライトに楽しんでもらえるものを作りたい、と思う方がモチベーション維持しやすいです。 「本は読まないけど宮部みゆきは知ってる」「東野圭吾は読んだことある」って人はたくさんいるじゃないですか。 いつか「結城真一郎は知ってる」って立ち位置になれたらいいな、とは思います。

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