薬局販売に向けた厚生労働省の検討会が昨年から開かれているものの、なかなか議論が前に進まない状況が続いている。 市販薬化(OTC化)を求めて要望を出した「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表の福田和子さんは、「検討会が長引く間に、薬を必要としているのに手にすることができなかった人が、どれだけいたかと考えると、当事者の切羽詰まった状況が届いていないと感じる」と語る。 次回の検討会は9月30日に予定されている。これまでの会議で議論されてきた課題について、改めて福田さんに聞いた。 緊急避妊薬はWHOの必須医薬品に指定されており、世界約90カ国では、処方箋なしで、薬局で購入することができる。 日本でも、必要としている人が確実に入手できる環境を整備する必要があるとして、薬剤師の関与のもと、処方箋なしに緊急避妊薬を利用できるよう検討することが「第5次男女共同参画基本計画」の中で明記された。 2021年5月には「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」が市販薬化の要望を厚労省に提出し、翌6月から検討会が始まった。 検討会の進め方としては、まず第1フェーズで課題点や解決策を議論し、その後パブリックコメントの募集を経てから、第2フェーズでさらに議論を重ね、最終的な意見を取りまとめることになっている。 しかし、会議が始まってから1年以上経った現在も、パブリックコメントの実施目処が経っていない状況だ。 一方、同プロジェクトが2019年にSNSなどを通じて実施した調査では、回答者1452人中1399人(96.3%)が「緊急避妊薬へのアクセスに障壁があると思う」という声を寄せた。 2020年の調査では、アクセスを阻む壁として「値段が高すぎる」「地域差がある」「恥ずかしさ、隠さなきゃいけない風潮がある」といった声が寄せられた。

「誰かの人生が大きく変わる」

夏頃にはパブコメがまとめられ、次の検討会を開くと言われていましたが、もう秋になってしまいました。 何ヶ月も議論が止まっている間に、緊急避妊薬を必要としている人が増えていくことを考えると、当事者の切羽詰まった状況が届いていないと感じます。 海外では約90カ国以上で、緊急避妊薬を薬局で購入することができますが、日本では処方箋が必要で、価格も6000円〜2万円ほどとかなり高く設定されています。 病院へ行って、緊急避妊薬を買うお金がなければ、当然、人工妊娠中絶の手術を受けることもできません。そのせいで、産むしか選択肢がないということになれば、その人の人生は大きく変わるわけですよね。 権利が制限された状況が続くことで、苦しむ人が増えてしまうことを強く懸念しています。

日本は海外とは違う?

ーー今回の検討会ではまず、厚労省が海外の実態調査を行いました。その中で、市販薬化による悪用や濫用の報告がほとんどないこと、市販薬化を撤回した国がないことなどを評価した委員もいた一方、海外と日本では状況が違うことを強調する委員もいました。 私たちもこれまで、海外で緊急避妊薬がどのように取り扱われているかを、WHOやFIGOの勧告やガイドラインをもとに、ファクトとして示してきました。 今回、厚労省が調査をし、市販薬化がされている国・されていない国も含めた各国の状況をいくつか出してきたわけですが、そしたら「日本は海外と違う」と言われてしまうようでは、じゃあ何のために調査したの?と感じざるを得ません。 でも、避妊方法がコンドーム一辺倒なのであれば、当然コンドームが破れたり外れたりする失敗も多くなるはずで、緊急避妊薬の必要性はより高まるはずじゃないでしょうか? 実際、私たちがSNSを通じて2020年に実施した調査(回答者9872人)でも、意図しない妊娠に対する不安を感じたきっかけで最も多かったのが、男性用コンドームの失敗で約7割でした。 コンドームが男性主体の避妊方法である中、緊急避妊薬へのアクセスが向上すれば、女性が避妊について自己決定できる機会も増えると言えます。 そもそもですが、WHOが2018年に勧告を出しているように、緊急避妊薬へのアクセスは「権利」であって、どの国の、どんな状況であれば、アクセスが困難でも良いということではありません。 これまでの検討会でも、市販薬化のメリットとデメリットを天秤にかけるような議論が繰り返されていますが、そもそも「権利」が守られていない状況から、どのように保障するかという議論になっていないことが問題だと思います。

病院や警察に相談できた被害者は一握り

確かに私たちが実施した調査でも、妊娠不安を抱いたきっかけの約1割が性暴力によるものでした。 緊急避妊薬を必要とする背景にそうした被害が一部あることも事実で、さまざまなケアになるべく早く辿り着いた方がいいのも、その通りだと思います。 しかし、内閣府の調査(2021年)によると、無理やり性交をされた人のなかで、ワンストップ支援センターに相談した人は0.7%、医療関係者に相談した人も0.7%でした。誰にも相談しなかった人が最も多く、56%に上ります。 どうすればよりそうした公的な支援につなぐことができるかという観点からも、薬局に緊急避妊薬が置かれるのは、入口を増やすことにつながると思います。 検討会では「(緊急避妊)ピルさえ飲めばいいのではない」という発言がありましたが、妊娠不安だけでも薬局で取り除くことができるのか、それとも様々な不安を抱えた状況で苦しませ続けるのかを考えたら、まず緊急避妊薬を入手しやすくするべきだと思います。

これまでの「しんどさ」伝えて

ーー今後、パブリックコメントの募集が実施される予定ですが、市民にはどのような声を届けてほしいと思いますか? これまでも私たちは要望書などを通じて、検討会で当事者目線の議論をしてほしいと訴えてきましたが、当事者の声が全く反映されていない状況が続いていると思います。 パブコメについては、どのような内容になるかにもよりますが、本当に多くの当事者の方にこれまでのしんどさを書いてほしいなと思いますし、どういう環境が必要かということを書いてもらえるといいなと思っています。 緊急避妊薬を薬局でプロジェクトでは、検討会の様子を傍聴しながら議論するTwitterスペースを配信する。視聴は同プロジェクトのアカウント(@kinkyuhinin)から。

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