その「DX」という言葉が日本社会に浸透するよりもはるか前に、同様の事業変革を成し遂げていた企業があります。 それが、皆さんご存知の「アドビ」です。 アドビは2012年、長らく提供してきた売り切りモデル「Creative Suite」に並行して、現在の「Adobe Creative Cloud」の提供を開始し、その後数年間を掛けて、サブスクリプション型モデルへとビジネス転換を図りました。 この時、アドビ日本法人で事業変革を指揮していたのが、現CDO(Chief Digital Officer)の西山正一さんです。

たった3人のチームから始まった事業変革

アドビは当時、テクノロジーが進化する速度に対応して事業を拡大させていくために、ビジネスモデルの転換に迫られていました。それが、売り切り型モデルからサブスクリプション型モデルへの移行です。サブスクリプション型モデルでは、お客様に満足して使い続けていただけるように製品を設計しなければなりません。そこで、セールス担当者が事業開発部門に入り、お客様に喜ばれる製品を一緒に作っていくことになりました。 ちなみに、メンバーを増員するためには米国本社の承認が必要です。日本のマーケットの特殊性などを説明し、「なぜ、この領域にこれだけの人が必要なのか」を明確に伝える必要がありました。このように、アドビは事業変革にあたって最初から大きなチームとして動いていたわけではなく、進むべき道を手探りで見つけながら、徐々にメンバーを増やす方針を取っていました。

サブスク転換で大きく変わったマーケティング活動

サブスクリプション型モデルへの移行によって、それまでの店頭販売ではなくWebが主戦場となり、マーケティング活動も大きく変化しました。 従来見ていた指標は、例えば「今週、A店舗で『Photoshop』を●本を売り上げました」というものです。それが「今週、『Photoshop』のWebサイトを●人が訪問し、そのうち●人がトライアルを始めました」という指標に代わりました。見るべき指標が、Webのパフォーマンスになったということです。 これは日本だけでなく、アドビの各国法人で抱えていた課題だったため、データを自動で収集・分析できる“ダッシュボード”がグローバルで統一して開発されました。インサイトを深堀りすべき箇所が見えてきたら、必要な機能を追加して進化させていくーーこうして、Webのトラフィックから広告のパフォーマンスまで、あらゆるデータを収集し一元管理するデジタルプラットフォームを構築することができました。

データ活用はデジタルとアナログの両輪が必要

デジタルプラットフォームを整備したら、次はデータ活用です。数字の上がり下がりを見るだけではなく、データから仮説を立てて、その検証のためにテストを行い、PDCAサイクルを回していきます。“データ”はデジタルで出せますが、“仮説を立てる”のはデジタルではなく、人が考えるアナログな作業です。

組織全体で経営課題を共有し、組織行動を変えていく

現在DXに取り組む企業から「社内の部署間で利益相反が起きてDXが進まない」といったご相談を受けることがあります。その時にまずお伝えしているのが、DXは「目的」ではなく、経営課題を解決するための「手段」の一つであることです。 アドビでは、事業部トップ直属の組織で事業変革を推進することで、組織全体で課題を共有しました。その上で取り組む方向性を示すことで、社員全員が迷いなく前に進むことができました。DX推進においては、トップのリーダーシップと強い意志で、アナログな領域とも言える「組織行動」自体を変えていくことが不可欠なのです。 DXを進めていく過程で、ビジネスモデルをはじめ、KPI、分析ツールなどがどんどん変化していきます。例えば、新たなKPIを追うことになった時、その指標がなぜ大切なのかを把握しますが、このような「日々新しいことを覚える」ことは、業務の一環として皆さんも行っていることでしょう。

取材後記:デジタル領域はアドビに頼ればいいんじゃない?

アドビと聞くと、画像編集ソフト「Photoshop」「Illustrator」や、 PDF編集・作成ソフト「Acrobat」などを思い浮かべる人が多いかもしれません。 ですが、実は、企業のDXに必要な全ての領域を網羅するプロダクトを展開しているんです。 西山さんが語ってくれたように、アドビ自身が事業変革において、様々な課題解決を経験しているからこそ、確かなDX支援ができるのだと感じました。

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