運転した増田立義園長(73)が子どもの降車確認を怠ったなど、複数の「ヒューマンエラー」が重なっていたことが明らかになっている。 国は昨年8月、福岡県で起きた同種の事件を受け、全国の幼稚園・保育園に安全対策の徹底を求める通知を出していたが、今回の事件を防げなかった。 現場に注意を促すだけで幼い命を守れるのか。ヒューマンエラーを前提にハード面の対策を強化するべきではないのか。 人間のエラーをカバーする技術的な最後の砦として「幼児置き去り検知システム」が今、注目されている。
事件を振り返る
いつも送迎バスを運転しているドライバーが休むことになり、ほとんど運転に携わっていなかった増田園長が代役を務めることになった。 バスは乗務員(派遣社員の女性)とともに出発。被害女児ら6人を乗せて園に到着したが、乗務員が幼い園児と手を繋いで降りた後、増田園長は車内の確認をしないまま降車した。 女児の担任やクラス補助員も、最終的に「登園」となっていた被害女児の打刻をチェックしておらず、「無断欠席かもしれない」と思い込んでいた。 車内で倒れている女児が発見されたのは約5時間半後。搬送先の病院で死亡が確認された。 国はこの直後、バスの乗降車時や散歩の前後に子どもの人数を確認することを求める通知を出したが、同様の悲劇は繰り返されてしまった。 保育現場の人手不足や労働環境は改善されないままの状態が続いている。現場に安全対策を求めるだけで幼い命を守れるのかーー。 実際、この2つの事件に限らず、車内に園児が置き去りにされるケースは度々発生している。
「送迎バスに園児を残したまま離れた」と回答
同社は5月、幼稚園・保育園で送迎を担当する20〜60歳代の267人(運転手、添乗員、運営管理者など)にオンライン上で調査を実施。 このうち、21人(7.9%)が「送迎バスに園児を残したまま車から離れた」経験があると回答した。 うち15人は、直近1年間での出来事だった。さらにうち3人は、車内に子どもがいることを認識していなかったという。 そのほか、「人手不足だから」「登園確認等のルールが形骸化しているから」といった回答も目立った。 置き去りを防止するシステムがあれば導入してほしいかどうかは、全体で約80%が肯定的に受け止めたが、バス運営管理者だけを見ると50%にとどまったという。
「うっかりミス」
三洋貿易の広報担当者は「米国では、50%以上が『うっかりミス』だった、つまり無意識の置き忘れだったというデータもある」と話す。 新潟市では今年5月、車内に取り残された男児(1)が熱中症で死亡したが、父親が保育園に送るのを忘れたまま出勤したことが原因だった。 担当者は「ヒューマンエラーは起きてしまう可能性がある。それを頭に入れ、テクノロジーの力を活用すれば、痛ましい事故を防ぐことができる」とした。
こんな技術も
センサーメーカー「IEE」(ルクセンブルク)製で、バス用の製品名は「LiDAS」(ライダス)。アメリカではスクールバス向けに採用が進んでいる。 ライダスは既存の車両に後付け可能で、置き去りが検知されるとアラームが発せられる。 2023年から納入を開始する予定だ。
社会としてセンサーを導入していくのであれば
それまでも市場導入を目指していたが、事件を防ぐセンサーを知っていたのに悲しい事件が起きてしまったことにショックを受けたという。 広報担当者は「これまで『事件を起こした人が悪い』で具体的な再発防止策が提示されず、議論が止まっていたこともあったと思う」としたうえで、次のように話した。 「保育現場では人材不足や労働環境など様々な問題が絡んでいると言われ続けている。痛ましい事故を防ぐため、社会としてセンサーのようなシステムを導入していくのであれば、行政もしっかりとサポートするような仕組みづくりを進めてほしい」